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極端極短小説 「おんせんきもちよかった」

ほろ酔いかげんで上機嫌のジョージは日本一の“温泉三昧人間”として有名な親しい友人と電話でいつものように長話をしていた。

今日行ってきた丹沢の温泉のことを大好きな新潟の銘酒景虎をちびちび飲りながら、だらけた笑顔で話している。

「そらあね、オタクさんが気にいるような温泉じゃねーかも知れねんですけど。

いくらマイナス一千兆サーラ(*注1)持ってるっつったって、この娑婆じゃ凡夫(*注2)の末席にぶら下がってるアタシみてえなもんには何ともありがたく浸からせて貰えるいい湯なんでゲスよ、ああた」

「あんらぁ、なにげにマイナスサーラ持ち自慢しとりゃ~すの、おみゃぁさまは」

「いやいや~そんなつもりはカミに誓ってねえでゲスよ、アタシは仏教徒でありんすがね・・あはは」

庭の草叢では心地よい虫の声が秋の夜長を彩っていた。

*注1・「サーラ」精神世界研究者としても知られる科学者ダイジョロン・ツカヒーラードン博士が提唱する霊的徳性ポイントの単位。肉体世界を輪廻転生することをインドの言葉で「サンサーラ」といい、広義でこの世、娑婆世界を表す。人間は自らの本性に目覚めない限り現世に生まれ変わり続け、永遠にこの世の「苦」を味わい続けなければならないと言われているが、ダイジョロン博士は霊的世界に於けるサトリのポイントを貯める事によって無駄な輪廻を避け、いち早く解脱することができることを発見した。サーラが少ない方が良いとされ、数値がマイナスになればなるほどニルバーナ到達に役立つとされる。因みにこの現実世界に住む人間の平均値は3サーラであり、サトリから程遠い数値である。博士は長年の研究により、サトリを我がものにするには少なくともマイナス百億サーラは必要であると2012年に発刊された「スピリチュアル実話」(*注中の注A)9月号誌上で述べている。

*注2・凡夫(ぼんぶ)煩悩に操られている人間

*注3・注も含めここに記されている内容は真実であるという確証は宇宙の隅々まで探しても見当たらないはずであるが、これを読んでも腹が立たないヒトは幸せであるということは言うまでもないことである。またそのようなヒトは少なくともマイナス1000サーラ(注1参照)は獲得できるのではないかとダイジョロン博士は著書「霊性ポイントを貯めてニルバーナへ行こう」の中で述べている。

*注4・注の方が長くてかんわぁ、とろくせぇこと書くんでにゃ~わと名古屋方面の方々にお叱りを頂きそうだが、どえりゃぁ申し訳にゃぁとお詫び申し上げる次第である。

*注中の注A・「スピリチュアル実話」実はプレアデス星団に事務所を持つといわれるベネフィット真空社が発行しているという噂があるが、未だ日本ではこの雑誌を見たという者は誰もいない。

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